第35章 航平、私は長谷川栞よりあなたを愛している

人って、言葉を失ったときほど笑ってしまうものだ。長谷川栞は口元を皮肉に吊り上げた。

「……ああ、じゃあ私、辞めない」

その一言で、中尾美希の顔色がわずかに変わる。引きつった笑みを貼りつけたまま言った。

「それは……本当に良かったです、栞さん」

「笑い方、無理してる」

「栞さん、私は本当に残ってほしいんです。もし私のせいで退職されるなら、罪悪感が――」

「中尾美希。身の程を知りなさい。あんたが中野蓮とだろうが、中野航平とだろうが、どこまでの関係になってようが構わない。でも、私にだけは噛みつくな」

長谷川栞は、それだけを最後の警告として落とした。

浮気の罪が一人にだけあるはずがな...

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